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INTRODUCTION

400年のその先にも続く。共に考え問い続ける、「今、何をすべきか」ということ。

さまざまなプロジェクトが推進された「有田焼創業400年事業」。あれから6年を経た今も、有田焼窯元の若手有志で構成するチーム「NEXTRAD」は、ときに産地の枠組みをも超えながら、ものづくりの在り方を問い続けている。

メンバーの徳永弘幸さん、前田洋介さん、藤本浩輔さん、福田雄介さんに、持続可能な産地を目指す彼らの活動について語ってもらった。

インタビュアー / 堤 杏子(HULS)

  • NEXTRAD

    事業規模や形態の異なる、伊万里・有田の窯元の若手経営者や後継者などで2017年に結成したチーム(2022年現在:14名)。各社の取り組みや産地の抱える課題や方向性などを議論、窯業関係者を招いての意見交換などを行ない、情報の共有とともに有田焼産業における持続可能な未来を考え、発信することを目的に活動している。次代(NEXT)の伝統(TRADITION)を考え、若手集団であるからこそ革新的(RADICAL)に取り組もうという想いから、「NEXTRAD」をチーム名としている。

――NEXTRADが結成された経緯について教えてください。

藤本:日本で最初の磁器である有田焼が誕生して400年を迎えた節目の2016年に、佐賀県をはじめさまざまな方のサポートを受けて、「有田焼創業400年事業」が進められました。メゾン・エ・オブジェやミラノ・サローネに出展したり、著名なレストランとコラボレーションしたり、新しいブランドを立ち上げたり。こうした大々的なプロジェクトが進行する中で、どうにもそれが一過性のもので消えていってしまうような気がしたんですよね。そこで、400年事業で有田に招聘されていたpromoductionのデザインディレクターである浜野貴晴さん(現 NEXTRADアドバイザー)に相談して考えたのが、これをきっかけに将来へつながるような人材を育てていく取り組みができないかということ。人さえ育っていれば、商品開発も販路拡大も、自分たちで切り開いていける。

有田には産地組合があり、その中に青年部があります。そこで、青年部の中でも比較的若手の窯元経営者や後継者を中心にNEXTRADを立ち上げ、外部の講師の方を招いたりしながら、継続的に意見交換を行なう場を作りました。400年事業のときに、みんな活発に意見を交わすようにはなっていたので、この機会にもう少しそれを加速させていけたらなと。将来の産地組合を牽引していく人材が育つよう、NEXTRADではメンバーが1、2年ごとに交代でリーダーを務めます。

藤本浩輔さん

――普段、NEXTRADとしてどのような活動をされていますか。

徳永:最初は毎月持ち回りで議長を決めて、自分たちが今悩んでいることや、製造・販売の問題など、テーマを設定して話し合うところから始まりました。今も月に一度実施しています。こうしたことを進めていく中で、「自分たちの問題意識を、外部の人たちにも知ってもらいたい」という意見が出てきたので、これを発信する場として「展示会をしよう」という話が盛り上がっていきました。それが2019年くらいのこと。その後、新型コロナの流行で一時は活動もできなくなっていたんですが、昨年の秋にようやくイベントを実施することができました。

徳永弘幸さん

――昨年はじめてイベントを開催してみた印象を聞かせてください。

前田:昨年のイベントの後みんなで反省会をしたときに、「もう一度やりたい」という意見が多く、今年も開催することになりました。

福田:内容については評判もよく、手ごたえはありました。そういう、ある程度満足いただけるような内容であれば、やっぱりより多くの人に見ていただきたいという気持ちがあります。

徳永:製造工程を紹介する展示をやってみて、業界の方たち――特に販売に携わる方たちが意外とご存知ないこともある、ということがわかりました。いろいろな発見があったみたいで。逆に、そういう情報発信が産地としては足りてなかったのかなと。そういう意味では、知ってもらう機会を作れたので、やってよかったと思います。

SDGsの観点から産地の問題を紹介する展示も行ないましたが、このテーマは若い世代の人たちの関心が高かった印象があります。有田焼を作るとき、どうしても鉄粉などが付いてしまうものが出てくる。これは規格外品として検品の際に外しているんですが、ご来場いただいた方々にどう思うか伺ってみると、若い世代では「環境のことを思えば、鉄粉程度は気にはならない」という意見が目立ちました。こういう意見があることを、作り手にはフィードバックしていく必要がありますよね。

藤本:有田焼業界は、若い世代に対してのアプローチが弱い。決して若い世代をターゲットにしていないわけではないのですが、手をかけるとコストが上がってしまうので、若い世代にはなかなか手が届きにくい単価になってしまいます。そこで、「持続可能なものづくり」というこれまでとはまた違った観点から、若い世代にアプローチしていければいいなと思います。

――産地の内へ来てもらうこと、外へ赴いて伝えていくこと。より多くの人に知ってもらうために、NEXTRADとしては、どちらを重視しますか。

藤本: どういうウェイトの取り方になるのかは状況次第で変わっていくと思うんですが、それはきっと両方とも必要な事だと思います。今年、チームに新たに一人加わって14人になりましたが、メンバーそれぞれ得意なことがあると思うんですよね。外に発信する能力が高い人たちだったり、産地内の連携を取ることが得意な人たちだったり。それぞれの特性を活かしていければ、いろいろな活動ができるだろうと思っています。

前田:「昨年のイベントを東京で開催してみるのはどうか」という議論もありました。

藤本:有田に来てもらうよりも、自分たちがこのイベントを見ていただきたい方たち、例えばメディアや業界の方たちがより足を運びやすいところで実施した方が、効率がいいんじゃないかと。でもやはり、産地に来ていただき、現場の空気感を直に感じてもらいたいという思いが強く、まずは、産地内で内容を自分たちなりに煮詰めていって、産地全体が納得のいく状態になってから、産地に来てもらうために消費地で実施するのが良いんじゃないかと思ってます。消費地に赴いて実行するには、まだまだ準備が必要な段階だと思います。

前田洋介さん

――NEXTRADというチームを通して、何を実現したいですか。

前田:有田のものづくりを知ってもらいたいですね。特に若い人たちに伝えて、ファンになってもらいたい。有田焼は有名ですが、なんとなく昔の古典的なイメージを持っている人も多い。でも実際は、窯元によって個性のある商品がたくさんあるので、それをもっと多くの人に知ってもらいたいです。イベントをきっかけに、ものづくりをしたい人にも有田に来てもらえたら、人手不足の問題の解消にもつながるかもしれない。

福田:持続可能な産地になっていく必要があると思っています。そのためには知ってもらわないといけない、若い人にもきちんとアプローチしないといけない。全ての行動の根っこには、「この先も有田焼を作り続けて次の世代に渡していくためには、今何をしなければいけないのか」という意識があるんですよね。我々が考えていることや製造工程を知ってもらうことがきっと将来につながるから、その一つの手段として、イベントをやっている。NEXTRADというチームで活動するのも、今のうちにみんなでさまざまな考えを共有していた方が、将来スムーズな産地運営ができるからという側面がある。

こうした意見交換ですが、徳永さんが青年部の会長になってからは、他産地とも交流をしていこうという動きが加速していて、NEXTRAD以外でもそういうことをやっています。最近新しく交流し始めたのは、波佐見焼の作り手さんたち。

藤本:峠を越えるだけでずいぶん大変だからね(笑)。

福田:県も違うし歴史的な背景もあって、これまでほとんど交流は無かったんですよ。そこを現会長である徳永さんが、突破していこうということを掲げられて。

徳永:そんな大層な……(笑)。でも結局、波佐見の窯元さんが取引している生地屋さんや型屋さんは、有田の窯元も懇意にしていることがあるので、おそらく有田が抱えている課題で、波佐見にも共通していることって多々あるよな、と思って。他県という行政的なハードルはありますが、ラフな感じで現場で問題を共有できていれば、今後話もまとまりやすくなるんじゃないかと、そういう思いでやっています。

 

福田雄介さん

――現在、最も重点的に取り組みたい問題は何でしょうか。

藤本:僕はSDGsの問題を一番やっていきたいかな。どの業界もそうですが、近年は資材関係など急激にコストが上がっている。そういう中でも多くの規格外品が生み出されていて、分業で成り立つ産地における利益の再分配の構造などの問題もある。でもこれから良い循環を作っていけたら、産地の各セクションにもう少し利益の分配ができるかなと。昨年のイベントのような方法でなくても、なんらかの形で現状は変えていきたい。

徳永:それは、情報を共有して、作り手と使い手の双方が納得すれば解決する話なのかもしれないと思うんです。だから、なるべく作り手から発信して知ってもらう、ということに取り組んでいければいいなと思います。昨年の来場者へのアンケートの中で、やっぱり「有田焼は白さにこだわるべき」という意見もあるんですよね。今までの歴史を通してずっと、有田焼は白を追求してきた産地だというのが厳然としてある。それはメンバーもよく理解している。とはいえ現状は先ほど藤本くんが言ったようなことでもあるので、知ってほしいという思いをみんな持っています。

藤本:もし、有田焼の産地でそういう認識を変革することが可能になった時は、おそらく日本全国の陶芸産地がみなその流れに乗れると思っています。工芸界全体としても影響があるんじゃないかな。そのきっかけ作りになればという思いで、今、活動しています。


プロフィール

・徳永 弘幸 / 徳幸窯
徳幸窯の5代目として、業務用食器を主に製作。転写の技術を用いた華やかな雰囲気の器づくりを得意とする。NEXTRAD前リーダー。

・前田 洋介 / 皓洋窯
現代の生活に寄り添うような家庭用の器を製作。熟練した職人と共に、どこかほっとするような器づくりに励んでいる。NEXTRAD現リーダー。

・藤本 浩輔 / 藤巻製陶
藤巻製陶で家業に従事する傍ら、次代の伝統産業の在り方に深く想いを巡らすようになる。また、地元の高校で教壇に立ち地場産業・伝統産業の啓蒙・PR活動にも取り組む。NEXTRAD初代リーダー。

・福田 雄介 / 福珠窯
伝統とモダンさを融合したデザインを得意とし、いつの時代にも美しく感じられ永く愛される器づくりを心掛けている。NEXTRAD現ウェブ担当。

 


NEXTRAD Interactive Exhibition / 展示・体験イベント
『Go Forward 2022 ―磁器のものづくりに関わる“14P”のこれから―』開催概要

日時:2022年11月3日(木・祝)~5日(土) 9:00~17:00
メイン会場:佐賀県陶磁器工業協同組合 有田窯元ギャラリー arita mononosu
(佐賀県西松浦郡有田町外尾町丙1217番地)
オフィシャルサイト:https://nextrad.jp/

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。