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INTRODUCTION

編み模様のポテンシャルを生かすことを大切に。目に美しく、生活を豊かにし、文化継承の一助となる作品づくりを。

まるで無数の小花が連なっているような、繊細な模様。

竹という素材の可能性を最大限に活かした小倉智恵美の竹工芸は、大聖堂のモザイク画を思わせる幾何学的な美しさと、竹の持つ柔らかな雰囲気が合わさり、あたかも小宇宙のように緻密で奥深い魅力がある。作品からにじむ柔和で真摯な人柄を感じながら、ものづくりへの思いを伺った。

インタビュアー / 中野 昭子

  • 小倉 智恵美さん 竹工芸作家

    京都府在住の竹工芸作家。繊細な編組が特徴。伝統的な編み模様や装飾技法の美しさを最大限に活かしながら、日本の自然に寄り添う作品作りを続けている。

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――竹という素材に行き着いた経緯や、魅力を教えてください。

もともと日本らしい精神性を持つ文化である茶道が好きでした。技巧を尽くした道具を使い、一期一会のおもてなしをする点に惹かれたのです。そのなかで竹に行き着いたのにはいくつか理由がありますが、一つには環境問題への意識がありました。私は神奈川県の山あいで育ち、人の営みで自然が破壊されつつあることが気になっていました。それで、環境に優しいものづくりを行ないたいと思ったのです。竹は昔から日本の風土に根付いており、成長が早いので選びました。もともと植物や花が好きで、子どもの頃から押し花をしたり、拾った木の実でものづくりを行なったりしていたため、竹も身近な存在だったということもありますね。

最初の頃は竹を割るコツがわからずに苦労することもあったのですが、縦にたくさん走る繊維の隙間を広げることで裂けるといった竹ならではの特徴を知るなかで、触れた時の優しさや温もりを実感し、とても愛おしく思うようになりました。

竹ひご作り。まず「割り」の工程を繰り返して細くしていく

(左から)黒竹、真竹、白竹

――日本における竹工芸の歴史を教えてください。

植物の繊維を編んで籠などの器物を作るという行為は縄文時代に始まり、格子状の四ツ目編みや直角に交わらせてV字の目を出す網代編み、六角形と三角形が連続で出る六ツ目編み、畳の目のようなゴザ目編みなどが考案されました。そして農具や漁具などのほか、生活の中で使うザルなどにも使われるようになります。模様が込み入っていると物が挟まってしまうので、作りやすくてシンプルな編み方が適用されました。

室町時代に入って東山文化が栄え、茶道や華道の基礎ができる頃、中国から精緻な編み方がなされた唐物の籠が輸入され、国内でも竹工芸は美術的価値があるものとして見なされるようになりました。その後、日本の職人が唐物を取り入れて写しを作り、千利休が竹の農具や漁具を花入などに見立てて使ったことで発展していったのだと思います。

 

――使っている竹はどちらのものでしょうか?

竹は産地によって特徴が異なります。私は優良な竹が取れる京都に住んでおりますので、できるだけ地元の竹を使うようにしていて、二十年ほどお付き合いしている京都の老舗の竹材店から入手しています。

制作には主に黒竹(くろちく)と真竹(まだけ)を材料にし、黒竹は大山崎町近辺のものを、真竹は亀岡市のものを使っています。真竹を油抜きして乾燥させた白竹(しらたけ)は、加工する職人さんが減っていることもあり、大分県から届くものもあります。

竹にはそれぞれ個性があり、同じ種類でも藪によって太さが変わってきます。作品作りにおいては、節の部分は脆くて凹凸がありますので、節の間が長いものを選びます。また、作る作品のデザインや用途によっても、どんな竹を使うのかを決める必要がありますね。

――籠などの実用品のほか、アクセサリーなども手掛けていらっしゃいますね。制作するものの基準などはあるのでしょうか?

仕事を始めた頃は、老舗の竹籠屋さんからご注文いただき、伝統的なデザインの花籠を作ることが多かったのですが、徐々に自分がデザインした作品を手掛けるようになりました。働き始めて5年くらい経った頃、個人作家として出品する機会が増えたのですが、なかなか売れなかったのです。老舗のお店でなら売れるけれど、ある程度値段の張る工芸品ということもあり、自分の名前だけで売るのは難しいことがわかり、どうしたらいいのか悩みました。

繊細な編組が美しい《バングル 雪》

そんな時、伝統産業に携わる人に向けた京都府主催の講座で商品開発のゼミを受講し、新商品を作る時の考え方を学び、自分の持っている強みを大事にしつつ、マーケットの状況を踏まえて何ができるか考えたのです。私は、刺繍のように竹ひごを差すことで模様が花のように見える、差し六ツ目編みのような繊細な技法を得意としていたので、それを活かした新商品を作ることにしました。何を作るか考えるなかで、アクセサリーであれば華やかな模様を表現することができますし、多くの人に関心を持ってもらえて、ある程度お金をかけても身に着けていただけると思いました。花籠や盛籠などになると、床の間がない洋間の暮らしの中では使いづらいでしょうし、お茶やお花に関心がある方にしか届かない可能性があります。アクセサリー作品は、より多くの方に関心を持っていただけるものを作りたいという思いから生まれたものです。

手首を上品かつ華やかに彩るアイテムは、世代を問わず愛されている

――小倉さんの作品のデザイン的な美しさと技巧の高さに惹かれます。デザインする時のマインドと職人的な技術を発揮する時のマインドは異なるものでしょうか?

おそらくデザインと技巧は別のところから発生しているものではないと思います。デザインに関しましては、今の生活の中で使っていただきたいので、例えばアクセサリーの場合は体に調和するデザインを考えていますし、フォルムにおいては純粋な美として考えることもあります。

一方で、竹工芸の特徴として、伝統的な編みによって成立する構造物であり模様である、という面があります。編み模様は考え尽くされたもので、編みの技術で作られた器物は実用に耐えるものとして成立しています。加えて(編み模様は)それ自体が完成されて美しいため、編みを使った作品は、実用面でも美的な面でも優れたものになります。

私は、「編み模様のポテンシャル」をどれだけ生かせるかを大切にしております。例えば3種類の太さの異なる竹ひごを編み合わせる時、0.1ミリ単位で幅を変えるだけで見え方が全く異なってきますし、一つの円の中にいくつのパターンが入るかでも印象が変わります。どうすれば模様が一番美しく見えるかを常に追求しながらデザインを考えていますね。

――パリで開催された『JAPAN EXPO 2014』に出品なさった時の反響や、印象的だったことを教えてください。

JAPAN EXPOでは、バングルやリングなどのアクセサリー類のほか、丸いプレートやボンボニエールのようなテーブルウェアを出品しました。私の作品はレースのような編み方ということでフランスと親和性があったようです。お客様の中には、2日間通っていただき、熟考の上でボンボニエールを購入くださった地元の方もいらっしゃってとても嬉しかったです。

フランスでも籠は作られているのですが、欧米で古くから使われているものはゴザ目編みのように編みが大きくてシンプルです。私の作品は籠ではあるけれども、「編み方が繊細で目を惹いた」という感想をいただきました。

ゴザ目編み

――今後の展望は?

目指していることは、大きく三つあります。

まず美しさを追求し、竹工芸の伝統的な編み模様が持っている力を活かしてより良い作品を生み出していきたいと思っています。

二つ目は、生活と乖離したところで制作していくのは私の思うところではなくて、使うことで生活の中で安らぎを得ていただける、長く愛でてもらえるような品物を作りたいということです。そのなかで新しい作品を手掛けていきたいです。

三つ目は伝統文化に関することです。私はもともとお茶の世界に惹かれてこの世界に入り、今も茶道を続けています。茶道や華道など、たくさんの日本人が育ててきた文化の伝承に、微力ながら一助となることができたらいいなと思っています。お茶やお花で使われる籠などの制作も大切にしつつ、ニーズを鑑みながら新しいものを作り、文化として繋ぎながら活動していきたいですね。

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。