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『谷穹 抽象と静寂』展覧会レポート

蹲や茶碗、水指など、多種多様な作品を展覧した

2024年11月2日(土)~11月10日(日)の期間、東京都世田谷区にある Gallery & Chanoyu 離岸にて、陶芸家・谷穹(たに・きゅう)さんの作品展が開催された。谷さんはいろいろなギャラリーや美術館で展覧会を行なっており、このギャラリーで個展を行なうのは初めてとなる。

谷さんは、滋賀県の信楽を拠点とし、中世(14〜15世紀頃)の信楽焼の技法を用いて自ら築窯した穴窯にて焼成している。本展では、蹲、茶碗、水指、建水、香合、花入、菊皿、平向、筆洗、盃といった多種多様な作品を展覧した。

ギャラリーの奥には、京間四畳半の茶室に加えて水屋と露地が併設されている。茶室と露地には谷さんの作品が展示されており、場に静けさと落ち着きをもたらしていた。谷さんの器で一服いただければ、世間の喧騒を忘れて豊かな時間を過ごすことができるだろう、そんな想像が膨らむ素敵な空間だった。

色も形もさまざまだが、いずれも泰然として趣深い点は共通している

谷さんの茶碗は、高台にろくろを使い他の部分は手びねりで作ったもの、全て手びねりの作品、全てろくろを使った器など、作り方も形もそれぞれ異なる。また、同じ土で作ったものを同じ窯で焼いても、窯の中の位置などで火色や焦げなどに個性が生まれる。谷さんによれば、作陶時はどういう作品になるか予想するし、ある程度は思い通りになるが、窯変の後にどういった性格を持つかは予測できないとのことだ。窯から出した瞬間まで器の性質がわからないのは不安を伴うだろうが、想像を超えるものができた時の喜びは大きいだろう。

ろくろや手びねりを駆使した茶碗には、それぞれに個性がある

室町時代の壺や甕など「古信楽」を探求している谷さんによれば、古信楽は近代以降の新しい信楽にはない空気を纏っている。それは経年変化によるものではなく、昔の陶芸家の高い技術によって醸成されたものとのことだ。また古信楽を知ることは、「昔の人の高い精神性がやきものの中に残されていて、それを読み取る」ことだと語る。室町時代の作品をそのまま再現するというよりは、昔の陶芸家と同じ目線で続きを行ない、過去に使われていた技術を見出したいとのことである。

今回展示されている蹲は谷さんの技巧や美意識が結実しており、悠久の時の重みを感じさせつつ現代の生活空間にも馴染む。普遍性が漂う逸品だ。

器の使い方や使う時の気持ちは、「使ってくださる方の自由」と言う谷さん。人がやきものを手にすると、用途を見出そうとする点に興味を惹かれるそうだ。作品《おやつ》は、文鎮や置物といった用途のものに見えるが、どのように使っても良いそうで、ユーモラスな名前や形が使い手の想像力を刺激する。古信楽が纏う美意識を突き詰めながら、どんな新作が生まれるのか。谷さんの今後のさらなる活躍が楽しみだ。

文:中野 昭子

 

 

■ 関連情報

Gallery & Chanoyu 離岸
https://rigan.jp/
住所:東京都世田谷区経堂2丁目15-3-2
TEL: 03-6784-3811
開廊時間:11:00~17:00
定休日:火曜日・水曜日

※開廊時間は展覧会によって異なります。また、呈茶の営業日はギャラリーの営業日とは異なりますので、詳細はホームページをご覧ください。

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。