Insightインサイト

展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。

展覧会情報

展覧会一覧へ

『中里健太 陶展』展覧会レポート

用途も佇まいも異なる、彩り豊かな作品が集結した

2024年4月20日(土)~4月25日(木)の期間、東京都新宿区にある柿傳(かきでん)ギャラリーにて、陶芸家・中里健太(なかざと・けんた)さんの作品展が開催された。

中里さんがこのギャラリーで個展を行なうのは、昨年4月の展示より2回目となる。昨年4月の展示は、柿傳ギャラリーでは初めての個展であると同時に東京初個展でもあり、その後はいろいろなギャラリーや展覧会でイベントを行なうなど、順調に活動の場を広げてきた。佐賀県唐津に生まれた中里さんは、唐津焼の陶芸家である中里隆さんと中里太亀さん親子が築いた隆太窯の三代目で、父である太亀さんの下で学んだ。本展では、茶碗、水指、花入、壺、徳利、ぐい呑、湯呑、マグカップ、オーバルボウル(入れ子鉢)など、多種多様な作品を展覧した。

ギャラリーの広い空間を見渡すと、とりわけ花器が目を惹いた。それはおそらく、土の繊細な質感や複雑な色味が、植物の生命力を魅力的に見せていたからだろう。器のシンプルでおおらかな雰囲気は、活けた花を品良く引き立たせながら、どんな場にも馴染むように感じられた。

中里さんの陶芸は、素朴さや渋さを残しながら、曲線や全体のバランスが美しく、伸びやかで瑞々しい。自由で新しい感性は、中里さんが文化服装学院を卒業し、学生時代はオーダースーツを制作する科に在籍していたことに関係するように思う。

中里さんは、さまざまなものをインプットして考える習慣や、技術を磨くことの大切さといったものづくりの基礎は、ファッションとやきもので共通していると語る。また、アフリカのアンティークや、ポール・ケアホルムやハンス・J・ウェグナー、ハリー・ベルトイアらがデザインした家具なども好きとのことだ。作品が和洋を問わずどんな場所でも馴染むのは、自身が柔軟で広い視野を持っていることに由来するのだろう。

朝鮮半島の陶工たちの力もあって発展を遂げた唐津焼は、日本で初めて顔料で絵付けを施したやきものとされ、変化を受け入れ挑戦を重ねてきた歴史がある。中里さんに唐津焼の魅力を尋ねたところ、やきものに漂う寛容さや、勢いはあるが軽妙でもある部分だと語った。作陶には、ろくろや絵付け、釉掛けといったさまざまな段階があるが、いずれも一回勝負とし、手を入れるのは必要最小限にしているそうだ。

やきものの良さは、料理を入れて食器として使ったり、お気に入りの家具や好きな絵画などと合わせ、自分が楽しいと思える生活に繋げられるところにあるという中里さん。自身のやきものが、暮らしの中でいつも傍にある器であれたら嬉しいそうだ。ある来場者は昨年の展覧会にも足を運んだとのことで、「どんな料理を入れても、美味しそうに見せてくれる。贅沢な気持ちになれるからまた買いに来ました」と話していた。

中里さんに今後について尋ねると、「少しずつ活動領域を広げ、より丁寧に、より良いものをつくっていきたい」と笑顔に。これからの活躍がますます楽しみだ。

文:中野昭子

オーバルボウルは大中小があり、ばらばらに使っても良いし、重ねても風情がある。生活の中で使い方を考えるのも楽しい

SHARE WITH

KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。