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『The rebirth of Kokura Ori 縞の美・縞の粋 ― ひとひらの裂(きれ)から小倉織の再生』展覧会レポート

約400点以上の作品を俯瞰する。中心には小倉織再生のきっかけとなった端布を展示

1983年、染織家・築城則子さんは、福岡県北九州市の小さな骨董品店で一片の端布に出会う。それは立体感あるたて縞が美しい、小倉織の子供の袴地だった。この運命的な出会いから、昭和初期より生産の途絶えていた小倉織の復元・再生に取り組み始めた彼女は、1984年についにその試みを成功させた。その後、築城さんが今日までに制作してきた小倉織作品は約400点以上にのぼる。今回の松屋銀座・デザインギャラリー1953での展覧会では、それらのほぼ全てを網羅する作品をアーカイブし、インスタレーションとして展示した。さらに、築城さんの小倉織制作に欠かせない草木染めの糸と、その原料となる植物染料を展示し、彼女の思いを綴った“つぶやき”と共に紹介。期間中にはトークイベントやワークショップも開催され、多数の参加者が訪れ賑わいを見せた。

築城さんが染織の道に入ったのは、大学在学中、世阿弥著『風姿花伝』の研究で能装束と出会ったことがきっかけだった。しかし彼女の心を捉えたのは、能装束の文様ではなく「色」だったと、トークイベントの中で築城さんは語る。「能の演者が衣装を翻すとき、目に飛び込んできたさまざまな色。それらの色の中に静謐な世界を感じ、魅了されました」。やがて久米島に渡り、久米島紬の染めから織りまでを学び始めるが、どこか物足りなさを感じていた。「緯糸(よこいと)の色が見えてしまうことに不十分さを感じていました。だから、あの小倉織の端布に出会えたことは、私にとってとても幸運なことでした。『経糸(たていと)の色だけが見える!』という感動。小倉織のたて縞のデザインは、私に合っていたのでしょう」。

小倉織は経糸の密度が高いため、緯糸の色が見えなくなる

先染めの織物である小倉織では、繊細なグラデーションを表現するため、さまざまな色彩の糸を準備しておく必要がある。築城さんは通常、何百種類という色を細かに染め分けているという。トークイベントで聞き手役を務めた、日本デザインコミッティー事務局長・土田真理子さんの「最も好きな色は何色ですか」という質問には、「一番高貴な色である紫は、やはり憧れの色です。なかなか染まりにくくて貴重な色。別格ですね。その他だと、緑が好きです。緑は一度では染められない色で、まず藍に染めて、そこに槐(えんじゅ)などの黄色を入れていきます。不思議ですよね。緑は自然界にこんなに溢れている色なのに。『目にしていることと真(まこと)のことは、別にある』と教えられていると言いましょうか、広がりがあって、奥深い色だと思います」と話した。

デザインギャラリー1953は、世界中のさまざまなジャンルのデザインを紹介する目的で、1964年に開設されたギャラリーだ。「これまでの築城則子の個展では、小倉織は帯などの作品として“呉服”という観点から鑑賞され、評価される機会がほとんどでした。しかし今回の展覧会は、展示企画・構成を世界的テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんが担当し、小倉織を“デザイン”という観点から紹介しています。これはとても画期的なことです」。そう語るのは、築城則子さんがデザインを監修する小倉織ブランド「小倉 縞縞」の築城弥央さん。小倉織は、築城則子さんと彼女に共感する多くの人たちの尽力により、いまや手織だけでなく機械織での生産を拡大し、世界にそのデザインの美しさを発信している。「今回のような小倉織のインスタレーションを、海外の会場でも積極的に展示していきたい」と築城弥央さんは意欲を見せる。

トークイベントの後、再度展示を鑑賞してみた。すると、築城則子さんの自然界の色への慈しみが、全ての縞の根底に流れていることに気づく。「自然界の音を聴き、頭に浮かんだ音楽を縞に落とし込むようにデザインしている」との言葉通り、一つひとつの色が、縞の中でハーモニーを奏でるように生き生きしている。築城則子さんは今、「たて縞をより活かすために、斜めの線を入れる試みを行なっている」という。まだまだ試行錯誤中で、高い完成度が要求される試みだそうだ。来年、小倉織は再生40周年を迎える。紡がれる新たな一ページを楽しみに待ちたい。

 

『The rebirth of Kokura Ori 縞の美・縞の粋 ― ひとひらの裂(きれ)から小倉織の再生』は2023年2月20日(月)まで開催中。

 

文:堤 杏子

■ 『The rebirth of Kokura Ori 縞の美・縞の粋 ― ひとひらの裂(きれ)から小倉織の再生』

会期:2022年12月27日(火)〜2023年2月20日(月) 10:00〜20:00(最終日17:00閉場)・入場無料
会場:松屋銀座7階・デザインギャラリー1953(東京都中央区銀座3-6-1)
ウェブサイト:https://designcommittee.jp/

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。