インタビュー:陶芸家・加藤亮太郎
VOICE VOL.7
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
有田焼業界では、鉄粉やピンホールによって規格外と判断され、廃棄されたり安価で販売されたりしている商品はいまだに多い。昨年のSDGs(持続可能な開発目標)に関する展示は「本当に小さな鉄粉一つでも良品として認識いただくことはできないのだろうか」という疑問から生まれた実験的なものであったが、今回はもう一歩踏み込み、「どの程度までなら許容できるか」という問いを投げかけるものとなっていた。規格外品にもランクがあり、良品に近いものから順にAからDにカテゴライズされる。そこで、来場者が産地の現状を伝えるパネル展示を見る前後で、許容範囲と感じるランクに変化が生じるかどうかを調査したところ、展示を見る前はAの回答が最も多く、展示を見た後ではCが最も多いという結果が出た。産地の現状を知ることで、人々の規格外品に対する許容範囲が拡大したことがわかる。
オープンファクトリーもみどころ満載だ。イベント2日目を担当した皓洋窯は家族経営の小規模な窯元で、手描きの染付を中心とした、一般家庭向けの商品づくりを得意とする。呉須の濃度は「勘で調整している」というベテランの絵付け職人の言葉に、参加者からは感嘆の声が上がった。ガス窯にはちょうど2日前に焼いた商品が入っていて、参加者は窯出しを体験することもできた。当主の前田洋介さんは、有田のものづくりに携わる生地屋や道具屋などの各業者の数が減少している問題に触れながら、「さまざまな人に支えられてこの仕事ができている」と語った。
分業制で成り立つ有田焼業界において、たったひとつの工程であっても、その担い手が減ってしまえば、産地全体が深刻な影響を受けてしまう。福泉窯の下村耕司さんは、「有田出身の若者が地元のものづくりに従事する好循環をつくることが理想」と話す。「産地の外からも従業員を募集しますし、もちろんインターン生も採っています。ですが、いざ有田で生活すると、仕事面でも環境面でも想像していたものとのギャップを感じて、2~3年で辞めてしまう人も少なくありません。田舎での生活は結構大変です。でも有田出身であれば、少なくとも環境面でのギャップは小さいでしょう」。まずはより多くの地元の若者にアプローチしていくための工夫を行ないながら、外からの移住者にも働きやすい環境整備について、今後も考え続けていく必要がありそうだ。
徳幸窯のオープンファクトリーには、外国からの参加者の姿もあった。佐賀県と有田町は2016年より「Creative Residency Arita」というプログラムを実施中で、オランダ王国大使館やクリエイターを支援するオランダのファンドの協力のもと、滞在型創作活動事業を推し進めている。これは、海外のクリエイターが有田に3カ月間滞在し、高度な技術を持つ職人や陶磁器業界関係者の支援を受けながら創作活動を行なうことで、コラボレーションの機会を創出するというもの。イベント実施時に本プログラムを活用して滞在していたオランダ出身のアーティスト、アフラ・エイスマさんは、徳永氏の話に熱心に耳を傾けていた。同行していた現地コーディネーターのフロライク・レムコーさんは、「海外には有田のような産地や窯元は少なく、オープンファクトリーもほぼ実施されていません。あったとしても、観光的な要素が強いことが多い。今回のオープンファクトリーは、磁器のものづくりの工程全体を隅々まで見ることのできる、貴重な機会となったと思います」と語った。
随所に工夫を凝らし、パワーアップした今回のイベント。パンデミック後の世界の中で、インバウンドへの期待も回復しつつあり、その先に有田焼の産業観光やクラフトツーリズムの可能性も探っている。有田という産地の未来を切り開くNEXTRADの活動に、引き続き注目していきたい。
文:堤 杏子
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