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AD NEXTRAD 1st Exhibition『Go Forward ―磁器のものづくりに関する”13P”の挑戦―』レポート

伊万里・有田焼窯元の若手有志13名(13 Person)で構成される「NEXTRAD(ネクストラッド)」は、10月22日(金)、23日(土)の2日間、佐賀県有田にて初の展示・体験イベント『Go Forward -磁器のものづくりに関する”13P”の挑戦-』を開催した。NEXTRADは、有田焼産業における持続可能な未来を考え発信することを目的に活動するチーム。メンバーは、普段は窯元の若手経営者および後継者としてそれぞれに特色あるものづくりを行なっているが、定期的に開催する勉強会で各社の取り組みや産地の抱える課題・方向性などを議論している。今回のイベントでは、多くの人々に有田焼について理解を深めてもらうため、Porcelain(磁器)、Process(工程)、Polyethism(分業制)、Production(生産)など、”P”を頭文字とする13のキーワードから、作り手が有田焼のものづくりについて説明。参加者と作り手が産地の現状や課題を共有し、これからの磁器のものづくりを一緒になって考えていくことを目指す。

素焼き生地を釉薬として再利用した「泡化粧」シリーズ(吉右ヱ門製陶所)

メイン会場では、実際に使用する材料や道具とともに、磁器の製造工程が順を追って展示されていた。各窯元もそれぞれのブースを設置し、自らの強みや得意な技術を紹介する。徳幸窯の徳永弘幸さんは、自社の転写技術について説明する中で「絵柄に凝ると、これくらいの種類が必要になってしまいます」と笑いながら、たくさんのパーツが並ぶ転写シールのシートを見せてくれた。畑萬陶苑の畑石修嗣さんは、新作として鍋島の伝統的絵付けを施したアトマイザー香水瓶を紹介。アルコール消毒液を入れて使用することもできる、現代のニーズを的確にとらえた商品だ。北川美宣窯の北川朝行さんは、さまざまなモチーフの色鮮やかな箸置きを展示し、「彫刻が得意なので、全て彫刻して型を取るところから制作しています」と語る。なかにはSDGs(持続可能な開発目標)に通ずる取り組みもみられる。吉右ヱ門製陶所の原田吉泰さんは、同社の代表的な商品「泡化粧」シリーズのルーツが割れてしまった素焼きの生地にあると話す。「素焼きのロスをなんとか減らし再利用できないかと考え、釉薬として再調合しました。それが泡化粧の釉薬開発のはじまりです」。各都市の展示会などでも商品の紹介は行なわれるものの、今回のイベントのように、作り手と会話しながらその背景やストーリーも含めて知ることができる機会は、実はそう多くはないのが現状だ。

磁器の原料・陶石

製造工程の展示

普段は公開していない製造現場を見学できるオープンファクトリーも、作り手自らが案内する。イベント1日目、午前のオープンファクトリーは藤巻製陶。案内役は藤本浩輔さん。藤巻製陶は、絵付けが一般的な有田では珍しく、白磁や青白磁など絵を施さない磁器を制作している窯元だ。成型から焼成までを手掛け、厳正な品質管理のもと生産を行なっている。「機械を使った量産体制ではありますが、意外と人の手が入っているんですよ」との説明通り、職人たちの手さばきが一朝一夕には真似できないものであることが、その作業を近くで見ることで実感を伴って理解できる。

成型作業(藤巻製陶)

下絵付け(福泉窯)

午後のオープンファクトリーは福泉窯。下村耕司さんの案内で工房に入る。驚くべきは、約4,000種にもおよぶという商品ラインナップの豊富さだ。有田ならではの絵付け技術を紹介しながら、「デザインは伝統的でなくても良い。でも、工程には伝統を残したい。技術は一度失うと簡単には取り戻せませんから」と話す下村さんの言葉からは、筆仕事を残していきたいという強い想いが伝わってくる。

会場奥のエリアではSDGsへの取り組みが紹介されており、規格外品の実験販売や金継ぎ体験のワークショップが行なわれた。現在、伊万里・有田焼の陶磁器産業は、受注減少、原料や燃料・人件費の高騰による利益率の減少、後継者や人材の不足、CO2排出や産業廃棄物の問題など、さまざまな課題を抱えている。この状況を鑑み、持続可能な産業の構築に向けての試みのひとつとして企画されたのが、規格外品の実験販売である。

磁器は、道具としての機能に問題のない安全な商品であっても、ほんの小さな鉄粉やピンホールひとつで規格外品として廃棄されたり価格を下げて販売されたりしている。今回の実験販売の目的は、これらの規格外品が一般にどれほど受け入れられるものであるかを検証することにある。つまり、規格外品をRe-BIRTH品(リ・バース品)と名付け定価で販売し、その収益の一部を森林保全活動に充てることで、その価値の社会的評価を探るというものである。規格外品の定価販売が可能になれば、収益率の増加や窯焚き回数減少によるCO2削減、産業廃棄物削減による地球環境負荷の軽減につながり、産地の持続性が担保される可能性が高くなる。しかし、磁器は陶器と異なり、歪みやピンホール、鉄粉、釉ムラなどを「景色」として愛でることがなく、特に有田焼は、昔からその繊細な技術と端正な美を讃えられてきた歴史がある。こうした固定観念の中で、「本当に小さな鉄粉一つでも良品として認識いただくことはできないのだろうか」という疑問から始まったこの実験販売は、価値観の転換を図る一種の「攻め」の試みであると同時に、長い歴史を持つ有田の次世代を担う若手たちが、新たな歴史を紡いでいくための、真摯な覚悟に基づく挑戦の第一歩と言えるかもしれない。

有田焼とは、それぞれの窯元の個性とは、持続可能な磁器のものづくりとはどのようなものか。参加者がそれらをより深く理解し、産地が抱えるさまざまな課題についてともに考え、作り手と問題意識を共有する機会を提供してくれた今回のイベント。これからの産地のものづくりを見据えた若手たちの取り組みは、参加者にどのように映っただろう。400年続いてきた伊万里・有田の磁器のものづくりを次世代へ継承していくため、NEXTRADの”13P”の挑戦は続く。

文:堤 杏子

■ 関連情報

・NEXTRAD オフィシャルウェブサイト
https://nextrad.jp/

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。