もともと骨董品が好きだという杉田さんの作品は、古物のような落ち着いた色合いと質感が特徴です。昔から日本人の生活とともにある漆器ですが、杉田さんの器は現代のライフスタイルにもしっくりと馴染む柔軟さを持ち合わせています。日常を重ねる中で味わいを増していくものに対する作家の思いが、作品に深みを与えているからでしょう。老若男女を問わず、時代を問わず、人々に愛されていくものの片鱗を、その奥行きある佇まいの中に見出せたように感じます。一方で、壁に展示されていた平面作品に見られるのは、抽象絵画のような新鮮で芸術的な表現。木に乾漆の麻布を掛け、その上から漆を塗ることで、麻布の編み目やしわが模様となり独特の風合いが生まれます。基盤となっている木材は、蕎麦打ちなどに使用されていた大きな古いまな板だそうです。「側面から見るとわかるのですが、足がついているので展示した時に壁から浮かせられる。これが好きで、古いまな板を集めて作品の素材に使用しています」。古きを慈しみ新しきを作る杉田さんの作品の魅力の源泉は、もしかするとその唯一無二の着眼点と、自らの好きなものを突き詰めていく素直な感性にあるのかもしれません。
大いに充実した内容となっていた本展。時間を忘れて杉田さんの世界観に浸ることができました。
文:堤 杏子