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『杉田明彦 個展』展覧会レポート

入口の展示風景

2021年6月5日(土)〜26日(土)、南青山 Sundries にて、石川県金沢市を拠点に活動する漆工 杉田明彦さんの個展が開催されました。

梅雨晴れの明るい陽射しが差し込む店内に一歩足を踏み入れると、まず目を引くのは入り口に掛けられた存在感ある黒漆のアートパネル。視線を奥に移せば、黒漆や白漆の椀が点々と並べられた個性溢れる什器が登場します。なにやら新種の植物のようにも見えるこのディスプレイの足元には、無造作に展示された大小さまざまな鉢や椀、トレイの数々。カトラリーや重箱など、他にもたくさんの作品が展示されており、ずっと眺めていても飽きない不思議な魅力のある空間でした。

生活の器が並ぶ

蓋付きの椀。植物の実のようにも見える展示が面白い

もともと骨董品が好きだという杉田さんの作品は、古物のような落ち着いた色合いと質感が特徴です。昔から日本人の生活とともにある漆器ですが、杉田さんの器は現代のライフスタイルにもしっくりと馴染む柔軟さを持ち合わせています。日常を重ねる中で味わいを増していくものに対する作家の思いが、作品に深みを与えているからでしょう。老若男女を問わず、時代を問わず、人々に愛されていくものの片鱗を、その奥行きある佇まいの中に見出せたように感じます。一方で、壁に展示されていた平面作品に見られるのは、抽象絵画のような新鮮で芸術的な表現。木に乾漆の麻布を掛け、その上から漆を塗ることで、麻布の編み目やしわが模様となり独特の風合いが生まれます。基盤となっている木材は、蕎麦打ちなどに使用されていた大きな古いまな板だそうです。「側面から見るとわかるのですが、足がついているので展示した時に壁から浮かせられる。これが好きで、古いまな板を集めて作品の素材に使用しています」。古きを慈しみ新しきを作る杉田さんの作品の魅力の源泉は、もしかするとその唯一無二の着眼点と、自らの好きなものを突き詰めていく素直な感性にあるのかもしれません。

大いに充実した内容となっていた本展。時間を忘れて杉田さんの世界観に浸ることができました。

文:堤 杏子

■ 関連情報

・Sundries
http://www.sundries-antiques.com/
〒107-0062 東京都港区南青山 4-10-15
TEL: 03-5411-0799
営業時間 12:00~19:00
定休日 日・月

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。