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「クラフトマンシップ」

クラフトマンシップという言葉は、近年、さまざまなところで使われるようになってきた。手仕事による工芸品だけでなく、時計や車からファッション製品に至るまで、物を作ることにおいて良質なものを追求していく姿勢は「クラフトマンシップ」と表現される。現代では、グッチやエルメス、ロエベなどのハイブランドの多くも、ブランド紹介の際にクラフトマンシップに関する説明を盛り込んでおり、今の時代に物の上質さを伝える上では、クラフトマンシップというものの存在は欠かせないのだろう。

クラフトマンシップとは何か

クラフトという言葉は、ドイツ語の「身体能力(kraftaz)」が語源とされており、そこから手仕事を意味するようになった。一般的には、クラフトマンといえば、熟練した職人のことを意味し、日本では「匠」とも呼ばれる。しかし、手仕事が少なくなった現代では、車や電化製品のように、ほとんどの工程を機械で組み立てられるようなものであっても、人が積極的に製造に関与し、良質なものを追求する姿勢を持つ場合には、「クラフトマンシップがある」という表現がされる。これは、時代が進むにつれ、一人一人の職人技術だけではなく、企業や組織がどのような姿勢で製品に向き合うかということにも重きが置かれるようになってきたからであるともいえる。

アーツ・アンド・クラフツ運動

19世紀後半から行われたアーツ・アンド・クラフツ運動は、クラフトマンシップというものを説明する上では欠かすことのできないものだ。アーツ・アンド・クラフツ運動とは、イギリスの思想家かつデザイナーであるウィリアム・モリスが先導し、提唱した社会運動である。モリスは、産業革命が進んでいた時代に、粗悪な大量生産品が増えたことを嘆き、中世の良き手仕事を見つめ直し、暮らしにおける美というものの重要性を唱えた。完成された製品だけでなく、人が物を作ることの喜びや楽しさ、さらには暮らしの美意識についても言及したことに、この運動の特徴がある。モリスの思想は、美術、工芸、デザイン、生活文化、いずれの領域においても重要な活動だとされており、日本ではその後、柳宗悦らによる民藝運動にも繋がっていった。

日本のものづくり

日本では高度経済成長期を経て、1990年代後半以降、「ものづくり」という言葉が広まっていった。すでに1980年代には、自動車やテレビにオーディオ製品など、日本製品は世界に幅広く普及し、性能や品質に対して国際的に高く評価されており、そうした日本の製造業を国の文化の一つとしてさらに強調して発信していくために用いられた言葉が「ものづくり」であった。そのため、この「ものづくり」という言葉は、完成品や製造そのもののことだけを意味するのではなく、デザインや品質管理、さらには後片付けに至るまでの、形ある物を生み出すためのさまざまな工程や精神性をも含む言葉であり、あえて大和言葉で表現することで、日本における製造業の伝統性が示されている。

一般的に日本人は、日常的に箸を使ったり、漢字を書くことなどから、細かな手作業が得意であり、手先が器用だと言われている。外国人から人気のある和菓子の細工やミニチュアなどはその良い例だ。工芸品であれば、寸分の狂いなく作られた木製の蓋物などは、日本の工芸品ならではのものづくりとして、海外からの評価が高い。蓋を閉じるという単純な機能だけでなく、美しく閉じるという美意識がそこにはあるからであろう。他国でも、フランスのオートクチュールやスイスの時計などは高度な技術で有名であるが、日本の木製の蓋物のように、使い手の所作にまで魅力が及ぶ工芸品というのは、日本のものづくりの一つの特徴と言えそうである。

 

 

工芸とクラフトの違い

日本には工作とは異なる言葉で、「工芸」という言葉がある。工芸とは、「芸」という漢字がついていることからもわかるように、芸術性のある日常の道具という意味を持つ。英語ではどちらも「Craft(クラフト)」と英訳されることが一般的だが、日本ではクラフトと工芸とは異なるものとして考えられている。クラフトというのは、定義が広く、趣味で行う編み物やアクセサリー作りなども含まれ、子供が授業で行う工作もクラフトと言われる。しかしながら、工芸は道具としての機能性とともに芸術的魅力が備わっている点に特徴があり、職人としての熟練した技術や暮らしへの美意識というものが不可欠である。現代でもそれは変わることなく、ウィリアム・モリスが唱えた思想のように、職業として物を作るということは、そこに労働としての喜びや技術的な向上心、暮らしへの美意識があるべきであり、工芸というものは、そうした作り手としての原点を教えてくれる。

現代におけるクラフトマンシップ

物を作ること、そこに想いを込めること。それは時に、大きな意味を持つことがある。親の手料理が子供にとっては特別であるように、誰かのためにと想いを込めて作られたものはプライスレスなものだ。世界の都市は、物質的には豊かになったと言えるだろうが、だからこそ、性能や値段だけで、物を購入することは少なくなっており、物の背景や生産者の想いに共感して、商品を選ぶことが増えてきた。そこに、クラフトマンシップという言葉の居場所がある。

これからの未来では、3DプリンタやAIなどを駆使した新たなものづくりが行われていく。それでも、その製品の使い手が人である限り、作り手の想い溢れるクラフトマンシップというものの価値が廃れることはないだろう。むしろ、無機質な物が増えれば増えるほどに、クラフトマンシップの価値は、これまで以上に高まるのではないだろうか。クラフトマンシップは、使い手がいてこそ成り立つものであり、豊かな暮らしへの想像力が不可欠である。その豊かさとは何なのか。それこそが、それぞれのクラフトマンが考え続けるべき問いであり、追い続けていく道なのだろう。

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柴田 裕介

編集長

(株)HULSの代表兼工芸メディア「KOGEI STANDARD」の編集長、コラムニスト。東京とシンガポールを拠点に活動を行う。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。