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「六古窯」

日本には、陶磁器、漆器、織物、木竹品に金工品など、さまざまな土地に工芸の産地が存在し、その土地ならではのものづくりが行なわれている。日本のやきものでも、九州の「唐津焼」と東北の「大堀相馬焼」では、素材や色表現などは大きく異なり、同じ石川県の漆器であっても、塗りが特徴的な「輪島塗」と木地挽きを得意とする「山中塗」のように、それぞれ独自の魅力を持つものもある。そうした産地ならではのものづくりを知ることは、一つ一つの作品を違った角度から楽しむことにも繋がり、現在では海外でも日本の工芸産地に興味を持つ人が増えてきている。この連載では、日本の工芸産地を一つずつ取り上げ、それぞれの歴史や文化的背景を紹介していく。

やきものの原点「六古窯」

まずは、日本のやきものの原点とも言える「六古窯(ろっこよう)」について触れておきたい。六古窯とは、陶磁器学者の小山冨士夫氏が命名した日本の陶磁器産地のことだ。瀬戸、常滑、越前、信楽、備前、丹波の六産地のことを指し、2017年には日本遺産に認定された。これらの産地は12、3世紀のころから続く伝統的な窯業地である。中世の時代には多数あった窯の中で、現在まで生産が続く、陶磁器産地の原点とも言える場所のことを、小山氏は「六古窯」と名づけた。六古窯は、その時代には三種の神器とも言える壺、甕、鉢を作ることで産地を成長させてきたが、瀬戸は施釉の陶磁器、常滑は急須、備前は徳利など、それぞれに独自の魅力を備えながら、ものづくりが長く継承されてきた。

愛知県常滑の「土管坂」

土に恵まれた産地

六古窯に共通して言えることは、土に恵まれているということだ。いずれも、その土地ならではの良質な土が取れ、陶芸産地の基礎を築いた。備前焼では主に「田土(ひよせ)」と呼ばれる田んぼの底の土が使われるが、この土は芸術家として名高い北大路魯山人にも絶賛された。また、常滑焼と言えば、現在では赤茶色の朱泥の印象が強いが、この朱泥は常滑の歴史の中では新しいものである。ただし、この朱泥も常滑で取れた土を改良したものであり、今でもその土地の恩恵を受け続けている。

技法においては、六古窯の多くの地で、釉薬をかけずに焼く所謂「焼締」の技法が用いられている。この焼締は、「窯変」と呼ばれる窯の中での変化による土の表情の違いを楽しむことができ、今ではその一つ一つの固有の表情が自然美を感じさせるとして、海外でも人気が高まっている。六古窯は、それぞれに異なる個性があるが、古くから続く産地としての共通する趣があり、それらの歴史を学ぶことで、一層産地への愛着が湧いていくことだろう。

参照

別冊太陽『六古窯を訪ねる』(平凡社)

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。