『谷穹 抽象と静寂』展覧会レポート
展覧会・イベントレポート VOL.30
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
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2024.12.12 – 12.25
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唐物茶碗や高麗茶碗が評価される時代が続いたのち、国内でも茶の湯のための茶碗が作られるようになった。和物茶碗の誕生である。瀬戸(愛知県)や美濃(岐阜県)から各地へ広がり、地域同士が流行や技術の面で影響を与え合いながら、さまざまな個性をもつ茶碗が生み出されていった。この章では、国内での茶碗の産地とその特徴に触れる。
唐津の登窯は伊万里、有田、嬉野などのほか、当初は唐津へ影響を与えた産地であった美濃へも広がっていった。17世紀ごろには釉薬を使わない焼締を特徴とする信楽や備前でも茶碗が焼かれ始めたが、この茶碗は志野や織部に似たものであり、美濃の流行を取り入れたものであった。窯などの技術は唐津を始めとした西から、形などの流行は東からと影響を与え合うことで、茶碗の多様性が育まれたのである。
江戸時代になると各地の窯はますます増加し、京都で焼かれた京焼が存在感を増した。色絵で文様を描いたものも生まれ、華やかな個性を放つ茶碗が流通しはじめた。
ここまで茶碗の歴史や各部分、産地とその特徴について触れてきた。しかし、茶碗を鑑賞する際に最も大切なことは、やはり用いることである。柳宗悦氏は著書『茶と美』の中で次のように語る。
「見ることは悦びである。しかし使うことの悦びはさらに深い。最もよく使われている場合ほど、器物が美しい姿を示す時はない。」
茶を喫するという目的は一つであっても、茶碗の個性はさまざまである。手触りや大きさが自分の手に最もなじむものを選んでもよいだろう。新しい茶碗でなくても、手元にある茶碗で茶を点ててみると、新緑のような緑色が加わることにより、清新な茶碗の表情にはっとすることもあるかもしれない。茶の湯に用いられる茶碗ならではの魅力である。
一服の茶を点て、喫する器が茶碗である。手に取り、何度も用いることで茶碗は物語を重ね、趣を増していくのだ。
文:時盛 郁子
参考:
・『茶の湯の茶碗第三巻 和物茶碗Ⅰ』(淡交社)
・『茶の湯の茶碗第四巻 和物茶碗Ⅱ』(淡交社)
・『茶の湯の茶碗第五巻 楽茶碗』(淡交社)
・柳宗悦『茶と美』(講談社)
出典:
・国立文化財機構所蔵品統合検索システム
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/G-5327?locale=ja
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/G%E7%94%B2655?locale=ja
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/G-74?locale=ja