MUFG「KOGEI ARTISTS LEAGUE」開催決定
工芸トピックス VOL.30
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
高橋工房の創業は安政年間(1854年~1860年)。初代の倉之助氏が、東京は水道橋に江戸木版画の摺り工程を専門とする工房を立ち上げ、その後、代々摺師の技術を継承してきた。五代目の新治郎さんの代になると、摺師の仕事に加え、作品の企画・制作・販売の総合プロデュースを担う版元としての活動にも着手。そして現在は、「昔から工芸や美術が好きだった」という六代目の由貴子さんが版元の仕事を受け継ぎ、浮世絵の復刻作品からインテリア商品、インソールなどの雑貨まで、画期的な作品を次々と世に送り出している。
長い歴史を持つこの江戸木版画は、摺り工程で調合した絵具を版木の上に刷毛で広げ、絵柄がずれないよう見当(けんとう)に合わせて紙を置き、バレンを使って何度も色を摺り重ねることで作品を完成させる。熟練の職人技で正確な濃淡を表現する「ぼかし」や、版木に絵具を乗せずに摺ることで模様を浮かび上がらせる「空摺(からずり)」などの技法を駆使することで、特有の奥行きや立体感が表現される。
高橋工房では、江戸時代から続く伝統を活かして、掃除や洗濯、お茶出しなどの暮らしにおける基本的な部分から丁寧に職人を育てている。イギリス大英博物館など海外での展示や講演、ワークショップにも精力的に取り組むのは、「世界の風に吹かれることが大事。人々が何を望んでいるか、世の中の動向を勉強してほしい」という由貴子さんの育成方針。業界全体の発展を願い、若手職人に海外の現場を体験させている。また、由貴子さんが理事長を務める東京伝統木版画工芸協同組合の事業の一環として、歌川広重や葛飾北斎などの数々の名作浮世絵の復刻に携わり、2018年には鳥居清長の春画「袖の巻」の復刻事業を開始した。江戸当時の最高の浮世絵版画技術が随所に垣間見える、鮮やかで上品な表現が美しい春画の復刻は、高橋工房長年の念願であった。この事業は、2019年現在も継続中。約200年ぶりとなる復刻の完成が期待される。